「あのね、今はそういう時期なんだと思うの。みんなからのプレッシャーと戦ってるのね。お母さんになるっていう不安に押しつぶされそうになってるんじゃない?」

百合子さんは少しも変りの無い、僕が知ってる優しい声で言った。

「うん。」


その声に、さっきまで苛立ってた自分が驚くほど落ち着いた。


「それは誰にも救えるものじゃないけど、それに耐え抜いた時に一皮むけて強くなれるんだよ、きっと。」


曖昧な参考だったけど、百合子さんは赤ちゃん目線じゃなくて“僕”に話しかけてくれてるのが伝わった。
また泣きそうになるのを堪えて、百合子さんが続ける言葉を聞く。


「でも産まれちゃえば、自然にそうなるものよ。だから今の自分がダメなんておもっちゃだめ。間違ってないよ。」




もう無理だった。
堪え切る事の出来なかった涙が僕の頬をあっという間に濡らした。


「泣かないの。」

そう言って百合子さんは僕にティッシュを差し出した。


「でもそうしたら、私より先に大人になっちゃうね。それもそれで嬉しいような哀しい様な複雑な感じだな。」


百合子さんは困った顔で笑いながら言ってた。



百合子さん、ありがとう…

でも僕は大人になれそうもないよ…