消灯時間が近付いてきて、看護婦さんが食事を片付けにきた。
ここでも「逢瀬さん、少しは食べないと…赤ちゃんが元気に出てきてくれなくなっちゃいますよ?明日の朝ご飯は、ちゃんと食べてくださいね。」なんて言われる。
「食え」聞き飽きた言葉。
もう、耳にタコが出来るほど聞いたわ。
あと30分で面会時間が終わるというのに、個室の病室のドアがノックされた。
「はい?」
僕は小さく返事をすると、静かに入ってきたのは百合子さんだった。
「こんばんは、調子はどう?元気?」
ちゃんと食べてる?って言わないの?
「うん、元気だよ。」
あ、そっか…
百合子さんはもう、“食べない僕”が当たり前になってるのかも…
「お花、持ってきたのよ。ごめんね、遅くに来て」
少し顔が見たくなって…と付け足して、百合子さんはベットの横にある花瓶に花を生けてくれた。
「ううん、平気。どうせ暇だし。来てくれてありがとう」
百合子さんは微笑んでから、すぐそばの椅子に腰かけた。