助手席に戻された右手。
その薬指には、艶やかに光るシルバーの指輪がはめてあった。
「え…?」
これって…
「ごめん。渡すタイミングずっと考えてた。怒らないで?」
ひんやりするはずの“ゾレ”はあたたかくて、千尋さんの手の中でここに来るのを待ってたのを物語っていた。
いままで怒っていた自分が、小さく思えて恥ずかしくなった。
「ちーちゃん…」
そこに来て、はじめて千尋さんの方を向いた。
暗くて良く見えなかったけど、千尋さんの顔は真っ赤で熱そうだった。
真面目な顔で見つめられたら、もう動けなくなる。
「要らない?」
そんなの…
「要る!」
決まってるじゃんか…。
千尋さんの右手には、同じ指輪がしてあった。
「良かった…。一応、婚約指輪って事で。」
千尋さんはやっと優しく笑った。