言葉なんて要らないよ。
戻ってきてごめんなさい…
そこに親父が顔を出した。
シャワーを浴びてたようだ。
久しぶりに見る親父は、角が取れたように優しかった。
「なんだ、もう帰ってきたのか?」
親父と普通の会話をしたのは、何年振りだろう…
「なにかあったのか?」と聞かれれば、初めて優しくされたように思った。
初めて話す、自分の事。
僕は何度も「帰ってきてごめんなさい」と繰り返した。
殴られなかった。
親父はコーヒーを飲みながら黙って聞いてるだけだった。
「来なさい。」
僕が百合子さんにした話しと同じ事を話すと、親父は僕を自分の部屋に呼んだ。
今こそ殴られると思った。
親父は百合子さんの前で僕を殴った事は一度もなかったから。
でも、そもそも此処に帰って来たのも勝手に出てくと決めたのも僕。
千尋さんの元を離れたのも、歳が足りなくて幼い僕のせいだ。
それを決めたのも僕。
男に生まれれば、とか、もっと早く生まれれば、とかどうしようもない事ばかりを考えてる…