帰らない、なんて威勢のいい事を言っておきながら、ちゃっかり帰宅。
家に着いたのは8時少し前だった。

4時半には向こうを出てたから、3時間半は歩いた事になる。

当然まだ親父は家を出ていない時間だ。


だけど、すごく眠くて、歩き続けたから足も痛くて、殴られるとか怒られるとか、そういう事はいつの間にかどうでもよくなっていた。



静かに玄関の戸を開けば、すぐそこのリビングには百合子さんが居た。

「どうしたの?!」


当然の質問だ。


「ただいま」


でも僕はその質問には答えずに、返事になってない返事をした。

百合子さんはとてもびっくりしていて、僕をリビングにある椅子に座らせた。


色々と聞かれて、僕は正直に話した。


向こうでの生活が、すごく幸せだった事。
バイトもすぐに決まって楽しかった事。
世間知らずの僕が初めて知った事。

此処を出るまでは知らなかった、千尋さんの事。


最後まで話し終える頃には、僕の目には涙が溜まっていた。
瞬きをすれば、すぐに零れてしまった。


「そうなの…」


百合子さんは下を向いて、言葉を選んでいるようだった。