喋りつかれてゆっくりしていると、チャイムが鳴った。
千尋さん、本当にすぐ来てくれた。
『会いたい』って言ってくれてたもんね。
「あ、来たみたいね。私も出ていい?」
百合子さんは嬉しそうに言って、玄関に向かった。
ドアを開けた人が女の人で、千尋さんはびっくりしていた。
そういえば、お母さんは出てった、とは言ってあるけど、お手伝いさんが居るとは言ってない。
「お手伝いさんの百合子さん。」
百合子さんは微笑んで、千尋さんも納得したように一礼した。
「優貴さんとお付き合いしてます、逢瀬千尋です。」
百合子さんは、千尋さんが僕の名前を呼んだ事にびっくりしたようだった。
「優貴ちゃんの名前を呼ぶなんて、そうとう懐かれてるんですね。」
「はい?」
僕は自分の名前が嫌いだった。
だから、他人に本名を教えた事がない。
それは、男みたいな名前だから。
男になりたかった僕だけど、身体は吐き気がする程女の子で…
そんな矛盾だけで、この名前が嫌いだった。
中途半端。
僕が普通じゃないようで、嫌いだったこの名前。