ばんっ!と大きな音が遠くで聞こえて、千尋さんの声がした。

「おい!何してる?!」


咄嗟に顔をあげる。


「なんだお前?!誰だっ?」


結構な物音が聞こえた後、ドアが閉まる音がした。

僕はゆっくりトイレのドアを開けて、状況を把握しようとする。


「ちひろさ…」

止まりかけてた涙が、溢れだす。


「だいじょう…」

千尋さんは、言葉に詰まってた。


僕に駆け寄って、かがんで僕の肩を掴んだ。

「これ、あいつにやられたのか?!」


僕はふるふると頭を横に振った。

そのまま千尋さんは困った顔で僕を抱きしめてくれた。


「怖かったな、もう大丈夫。大丈夫だよ…」


僕は一生懸命千尋さんのスーツを掴んで泣いた。



此処に、千尋さんがいる…



どこにも行かないで…