千尋さんの車が見えなくなるまで見送って、僕は家に入った。
階段からバタバタと百合子さんが降りてきた。
「遅かったじゃない!孝治さんが心配してるよ、寝室に居るから。」
心配?
怒ってる、の間違いでしょう?
僕は百合子さんに「ごめんなさい」とだけ言って、親父の寝室に向かった。
ドアを3回ノックして、部屋に入る。
「ただいま。」
僕はベットに横になりながらテレビを見てる親父に向かって言った。
ゆっくり起き上がって、親父は僕に近寄ってくる。
鈍い音がした。
親父の拳は、僕の顔に当たった。
「…っ、」
ほんと、容赦ないなぁ。
「金は?」
大きく息を整えてから言った親父の質問に、僕は殴られた方を向いたまま答える。
「ないよ。」
顔を親父の方に向き直した。
ばしん、と今度は反対側を殴られた。
何が言いたいのかなんて、分かってる。
夜遅くまで出歩いた上に、稼いできてない事に怒ってるんだ。
だから、何をしていたんだ、って言いたいんだと思う。
金は、あるよ。
でもこの5万円は、一応持ってる。って言って、千尋さんから受け取ったお金。
すぐに使うわけにはいかない。
たとえ、僕を守るためでも。