「大切なものが何なのか、わかってるのか?」



 カピカピに訊ねられたゾックは、過去のことを思い出す。

『あれはハデアールと初めて行ったデートのとき』



「なんか語り出したぞ」



『ハデアールは私の“何もない海に行きたい”という願いを叶えてくれた』



「なんでそんな何もない場所に行きたがるんだ?」



『そのとき拾った、ハート型の貝殻。それが私の一番大切なもの』



「ハートの貝殻……?」



『だが、それを失くしてしまったのだ。だから私には、もう戻る方法がないのかもしれない』



「……いや、あるだろ」

アア、私は悲劇のヒロインなのだ、と崩れたゾックを見て、ヒロイン? と疑問に思ったが、大事な場面なので、気にしないことにする。

「一番最初、新人歓迎会とか言ってたとき、ハート型の貝殻、蹴っ飛ばしてなかったか?」



 ゾックはハッと気づき、地面を這いつくばって、黒光りするGのようにカサカサと動き回り、そして、見つけた。



『あった』



「ほらな」



『元に戻りたい!』