「はは・・・。・・・是人くん。あのぉ~、ぼーっとしてないでさぁ。早くしてくれない?」



緑は笑うのを止めると突然表情を消して神経質な口調で言った。



「・・・・・」



是人は何も言わない。
黙って前髪を押さえている。
前髪とそれを覆う手のひらに隠されてその表情は見ることができない。



「ねえ?」



緑がもう一度是人に投げかけたが、是人は立ち尽くしたまま動かない。
肩が小さく揺れている。



「・・・ふぅん」



緑は不機嫌そうな声を上げた。
目を細めて是人を睨んでから、朝日の方に向き直った。
朝日は反射的に身の危険を感じてハッとした。



「じゃ、続きしよっか?」



「!!」



朝日はびくりと体を強ばらせた。

緑はにんまり笑ってゆっくり朝日に近づいて手を伸ばす。

朝日は身を捩って逃れようとするが体を縛るロープがそれを許さない。

じわじわと緑の手が朝日の体に迫る。

朝日は先ほどの不快な感触を思いだし強く目を瞑った。



「や、やだ―――」




「やめてくださいっ!!」




朝日の悲鳴を遮って、是人が大声を上げた。



緑はピタッと手を止める。


朝日は緑に触れられずに済んだことにホッとしながら是人を見た。



「是人・・・」



是人は前髪から手を離し、拳を固く握りしめていた。
しかし、是人の体はまだ小さく震えている。



「"やめてください"、ねぇ~」



緑はコキコキと首を左右に曲げながら気だるそうに言った。



「じゃあさぁ~、さっさと前髪上げてみせて~?ね。ほら。朝日ちんにも~見せてあげなよ~」



緑は自分の前髪を持ち上げて是人に見せつける。



「・・・・」



是人は前髪の隙間から緑を見据える。
それから朝日に視線を移した。


朝日と是人の目が合う。

是人の目線の先で、朝日は不安そうな表情を浮かべている。



是人は自分を落ち着かせるようにフッと息を吐いた。


再び緑に視線を戻し、口を開いた。





「・・・・わかりました」