かやま・・・ここひと・・・。


朝日は心の中で男の名前を呟いた。

あくまでも心の中で。


朝日は是人を無視するつもりで、手に持っていた雑誌に目を落とした。


香山是人は朝日が通うS高校26HRのクラスメイトだ。

けれど朝日にとって是人は、同じクラスになってからただの一度も話したことのない、知り合い以下の存在だった。

それに是人は・・・。



「斉藤さん・・・?」



是人は訝しげに朝日を見つめながら言った。

気がつかなかったふりをして雑誌を見ていた朝日だが、さすがに名前を呼ばれて無視はできなかった。



「あ・・・ああ、香山くん?えっと、偶然だね・・・」



朝日はぎこちない作り笑いを浮かべ、当たり障りのないように答えた。


そうして彼が開いている雑誌に目を止める。


ここからだと裏表紙しか見えないので雑誌名はわからない。

裏表紙では水色や緑色の髪をした目のキラキラした女の子のイラストが微笑んでいる。
それを見れば、多分マニアックな雑誌なのだろうと予想がつく。
・・・そう。
是人は、重度のオタクなのだ。




・・・キモい。



それが朝日の率直な気持ちだった。


今の気持ち、ではなく、同じクラスになった今年から、ずっと感じていた気持ちだ。


なんでよりにもよって是人なんかに会うんだろう。
朝日は自分の不運を呪った。

とりあえず。

こんな奴に構っていないで面白い雑誌でも買って帰ろう。

そう思ってさっさと話を終わりにしようと口を開いた・・・が。