是人に呼ばれて佐奈は足を止めた。


「今の場面、携帯のムービーで撮らせてもらいましたから。またこういうことしたら、ネットで流しますよ」



是人はポケットから携帯を取り出すと佐奈に向かってくるくる回して見せた。



「・・・きめぇんだよ!オタクが!」



それだけ言い残すと佐奈は教室を出ていった。

残りの二人も慌てて後を追う。



「・・・・」



教室には、朝日と是人だけが残された。




「・・・ま、嘘ですけど」


急に静かになった教室に、是人がボソリと言った。



「え?」


朝日が聞き返す。


「ムービー撮ったって言ったの、あれ嘘です。さすがにそんな咄嗟に撮れませんよ。まあ信じたみたいですから、嘘でも牽制になるでしょう」


「・・・減税?」


「・・・あなたに言った僕が馬鹿でした。忘れてください」


相変わらす是人は淡々と言う。

朝日は今の是人の発言から自分が馬鹿にされたことになんとなく気がついていたが、言い返す気力はなく黙っていた。


「・・・あ、そうそう」


是人が思い出したように言い、ポケットを探り始めた。

朝日はなんだろう、と思いながら静かに是人の仕草を見つめた。

是人は携帯が入っていたのとは反対側のポケットから何かを取り出した。



「はい。どうぞ」



「・・・これって・・・」



是人が差し出したのは、朝日の学生証だった。



「なんで是人が私の学生証を・・・?」


「コンビニで会った時に落としてったんですよ。財布にでも入れてて落ちたんでしょう?馬鹿ですね。学校で渡そうと思って制服のポケットに入れたまま忘れてたんですけど、さっき玄関で気がついたんです」



「・・・是人、これ渡すために教室に戻ってきたの?」


「はい。それが何か?」



・・・なんていうか。



すごいグッドタイミング。

是人が来てくれなかったら、私今頃どうなっていたか。


なんか、不本意ではあるけれど。



まるで王子さ・・・―――。



「な、なにこれっ!?」