『サリエル様だったら話せば分かる方だ。

実力行使は避けられるかもしれない。』

『アイツは情け深い馬鹿な天使なんだよ。』


穏やかに微笑む右京にアランは一瞬目を奪われて言葉を失った。


『そこで俺は今からサリエルに会いに行こうかと思う。

とりあえず俺が留守の間は虎太郎に任せるよ。』

虎太郎は『承知しました』と優雅に御辞儀をした。


『お…おい…今からって…?』


ロイがみんなが疑問に思ってる事を口にしたが、右京はそれには答えずにくるりと身を翻して部屋の隅へと向かった。


何もないむき出しのコンクリートの壁を見つめ片手を付いた。


ふとどこからともなく風が動き出した。


一瞬突風のようにそれがはじけたかと思うと、右京の背中に大きな6枚の漆黒の羽が現れた。


その姿に息を飲む一同と深々と頭を垂れる虎太郎。


右京はそれを気にもせず壁に着いた手に意識を集中させる。

次の瞬間、壁に右京の腕がめり込んだ。

壁が右京を飲み込んだのか、右京が壁へ吸い込まれたのか…

それはなんとも不思議な光景だった。


彼がその姿を消すと虎太郎はゆっくり頭を上げた。


『…すげー…夢じゃないよな…?』

『…本当に天使だったんだ…』


虎太郎はそばにあった椅子の背を掴んで引き寄せると腰を下ろした。