直ぐに掴んだ手を放すとゴンッと頭を地面にぶつけた虎太郎が『いてっ!』と呻いた。


『これも犯罪になるの!?』

『…ならない…かな?』

『なぜ?』

『だって嫌じゃないし。』

『分かってるじゃないの。

つまりそういう事よ…』


一瞬間を置いて虎太郎は怪訝そうな顔をした。


『…まさか…襲って欲しいの?』

『なっ…なに言ってんの!?』

『…違うのか…女って難しいな…』


頭をガシガシと掻きながら上半身を起こす鈍い男にリサは溜め息を付いた。


『ヒューガの方が難しいわよ…』

『なんだよ…はっきり言わないとわかんないよ。』

『…もっと貪欲になりなさいって言いたいのよ!』

『欲はあるよ?それなりに…』


話せば話すほどイライラが溜まる気がした。


『ヒューガの欲って?
私にして欲しい事は?』

『何かして欲しい訳じゃないよ。

ただリサにそこに居て欲しいんだ…ずっと…』


そう言って優しく微笑む虎太郎にちょっと照れたように口を尖らせた。


『そんなの…欲に入らないわよ…』


天使に『貪欲になれ』と言うのは無理な話かもしれない。


でもリサは精霊で今まで自分の欲求には素直に行動して来たのだ。


どうやらその違いは思ったより大きいらしい。


半ば諦めたように『もういいわ』とリサは小さく笑った。