トウマが、この春…日本を去ったから。


一年間は仕事を休むのだそうだ。


あたしはこの業界の厳しさを、身をもって知った。

メディアから去るタレントに対して、世間は驚くほど無関心だったから。

露出が多い時はなんだかんだもてはやすけれど、今後広告塔になりえないと知るや否や、すぅと波がひいていくように人が去っていく。

トウマは、分かっていたみたいだけど。
「覚えておけよ、利用価値がなくなったタレントの扱われ方を」って、あたしに教えてくれた。表に立つ立場になったら寄ってくる奴らは沢山いるから、と。チヤホヤされても、冷静でいろ、と。逆にこちらが利用してやるくらいの気持ちで、取り巻きはふるいにかけろ、…と。


メディアから去るトウマの熱愛を、烈火さんを敵に回してまで報道するメリットはどこにもないようだった。

あたしはそれを、一抹の寂しさを感じながらやり過ごした。



トウマは、両親が亡くなってから一度も訪れていないという、生まれ故郷のカリフォルニアへ戻るそうだ。

…短くなったあたしの髪を撫でながら「ついでにSarahの墓参りもしたいしな、」なんて懐かしそうに言うから。つい腕の中で拗ねてそっぽを向いたら。


「何を誤解してるのか分からないでもないが…お前、まんまと烈火さんに騙されてるぞ。Sarahは、俺が両親を亡くしたあとも最後まで一緒に暮らしていた、シェットランドシープドッグだ。」


そう、笑いを噛み殺しながら…のたまった。





シェットランドシープドッグ…


シェットランドシープドッグ……だと!?




…………いいの。そっとしておいてください。
まだ自分の中で収まりがついていないのよ、あたしも!




たしかにね!

たしかに、人間の女性であるとは一言も聞いていないよ?そうか、メスだからShe、とか、彼女は、とか言ってたのね!?


けど……
絶対ワザとだもん、烈火さんてば!!!

それを聞いたときの
あたしの脱力感といったら、無かったよね。