そのまま、トウマは黙ってしまった。
視線は外に向け、遠くを見ている。
あたしも同じように外を見た。
想いを馳せる。
ゲレンデの先、ゴンドラの先、
その、もっともっと先へ。
ああ、………違う。
聞きたいことより
伝えたいことの方が、たくさんある。
「…ほんとうは、」
自然に口が動いた。
「烈火さんに言われて、あきらめるつもりでいたの。トウマのこと。」
白い雪に覆われた小さな鳥居が見える。
今朝、あそこに手を合わせて決意したばかりなのに。
「だけど今日、番組で今までのことを振り返ってみたら…ダメだった。自分がどうしていまここにいるのか、あたしの行動の原動力って全部、トウマなんだもん。そのことを思い知らされたの。きっかけは全て、あなたが与えてくれたんだって。だから、あたしからあなたを追い出すこと自体、ナンセンスなんだって。あたし…」
どうやっても切り離せないくらい、いつの間にかトウマは自分の一部になっていたの。
「…お前が初めてオーディションに参加した時のことを覚えてるよ。」
すぐ耳元で聴こえる、低くて心地良い声。
大好きな、トウマの声。
「上手い奴なら他にも沢山いたが、声が耳について離れなかったのはお前だけだ。こんなことは初めてだった。自分でもどうしてこんなに気になるのか、わからなかった。だから、お前を特別枠で採用したんだ。…烈火さんに無理を言ってな。」