そのまま手を引かれて、辿り着いたのは…誰もいない、真っ暗なDJブースだった。
ガラスの向こうでは、ゲレンデの明かりだけがぼんやり白い光を放っている。

暗くて、静かで、昼間の大騒ぎがまるで嘘のよう。さっきの騒ぎも、…同じく。

どちらからともなく、チェアに腰掛けた。テーブルを挟んであたしはメイン席に、トウマはゲスト席に。

ここから、いくつのシーンを目にしてきただろう。ゲレンデ上のプロポーズや、選手達の高度な技、レスキュー隊の出動、迷子、いさかい、…いろんなことが、あった。もう、ここに座ることはないんだ。トウマと座ることも、…もちろん。


「おまえと並んでここに座るのは、初めてだな。」

あたしと同じように、トウマも外を見ていた。


「ダブルDJ…してみたかったな。」

トウマとふたりで番組を。
もう、叶わぬ夢になってしまったけど。
だって、


「ふ、…オレは御免だ。気が散ってしょうがない。」

トウマが笑う。

「ど…っ!どうせ、あたしなんかじゃ相応しくないって分かってるけどっ!」

「…そういう意味じゃない。」


一段低く声を発したトウマは、もう笑っていなかった。

真剣な、
真剣な、かお。


「お前は、いつだってオレを混乱させてきた。…オーディションの時から、ずっとだ。」