「…最後に、なかなか興味深い話をしていたね。ラジオから流れてきた声に恋をしたのどうのって。あれは、本当の話かい?」

「あ…っと、あははっ!やだなぁ、野本さんってば聴いてたんですかっ!?」

「そりゃエンディングトークだもの、聴くさ。内容も内容だしね。あの時、まわりもみんな一瞬静まり返っていたよ。」


野本さんの目尻が緩やかに垂れ下がる。
うわぁああああぁあ、なんか猛烈に恥ずかしくなってきた、、、
ムードに流されて何か喋りすぎたんじゃないのあたしっ!?大丈夫!?大丈夫だった!?もしかして、それトウマのことだってバレバレ!?


「声に恋するっていうのは…今時なんだか風流でいいね。姿は見えないのに、声を媒介してその人を誰よりも近くに感じることができるんだ。想像を掻き立てられるねぇ。」

「野本さん…」

「僕も若い頃は熱心なラジオリスナーだったんだ。よく、リクエストはがきを書いて送ったものさ。少しでもパーソナリティの目に付くようにイラストを添えたり派手な色で塗ったり…“ハガキ職人”なんて呼ばれてたのの、はしりかな。」


懐かしいねぇ…
と、野本さんはため息交じりに言う。


「それで、安藤さんは…その人に、会えたのかな?」

「は… いや、ええ、っと…」


イエスともノーとも言えない。
でも、沈黙はイエスだ。
思わず黙り込んでしまったあたしを見て、野本さんはさらに目尻を下げて、言った。


「いい恋に、してください。その恋はあなたを成長させてくれるでしょう。命短し恋せよ乙女、ですよ。応援しています、シラカワスノーリゾートを挙げて。」


cheers!、と粋にグラスを掲げて野本さんは去って行った。