あんな態度をとったのに、放送中トウマはずっと後ろのソファにいてくれた。もちろん、プロデューサーの烈火さんと一緒に、だけど。
仕事だからって分かっているけど、やっぱりそこにトウマがいてくれるだけで心強かった。


ふたりのテーブルにはたくさんの資料が散らばっていた。
4月からの局の番組編成のこともあるし、シラカワスノーリゾートの来年度DJ業務のことも、そろそろ考えなくてはいけないようだった。現場は現場に任せて、上の人たちは次のこと、そのまた次のことを考えてるんだなぁ。

トウマは現場の人間として表舞台に立つこともするけど、同時に烈火さんのブレーンとして裏でも活躍していて、信頼も厚い。見ていて、それがよく分かった。タレントの顔だけじゃない。つくづく、有能な人なんだ、あの人。



「さて、最後の1時間は…改めて、みんなに、わたしの個人的な思い出に付き合っていただこうかな、と思います。」

中継も無事に終わり、プログラムは予定通り進行していく。

午後4時の終了時刻まで、ラスト1時間。

いよいよ、これで、
このスキー場ともお別れだ。


「わたしは去年の秋に、ここ、シラカワスノーリゾートに来ました。生まれて初めてのスキー場でした。それに、人前でしゃべるのなんて本当に初めてで…DJ、なんて最初は右も左もわからなかったんです、なにをしていいのか。」


そう。
ほんとうに、勢いだけで飛びこんだ世界だった。


「でも、飛びこんでみたら、…みんなが、いた。メッセージやリクエストを通じて、番組に参加してくれるみんなが、いた。わたしのつたないトークにも、ゲレンデから反応してくれるみんなが、いた。」


いつだって、お客さんに助けられた。

ブースの中でマイクを握っているのはひとりだけど、ガラスの向こうは沢山の人に繋がっていた。ひとりじゃ、なかった。一緒に、作ってきたんだ。それを、伝えたかった。


「みんなと共有してきた沢山の時間は、かけがえのない私の宝物です。最後の1時間、一緒に振り返って、くれますか?」