静かな教室で鈴音のシャッシャッとペンを走らせる音だけが、聞こえる。
怜悧と光は何をするでもなくひたすら問題を解く鈴音を眺めていた。


今はそっとそばにいてあげるのが一番だと思ったのだ。



「ここ解らない。」


順調に進んでいた鈴音のペンがピタリと止まる。
そして光を遠慮がちに上目づかいで見遣る。



「はっ⁉何で僕が。」


鈴音は何も言わずそのまま用紙に視線を落とす。


光はやれやれといった感じで、解き方を教え始めた。


この二人はいつになったら仲良くなるのだろうか。
鈴音は光を露骨に嫌っているし、光は光で鈴音に冷たい。



今日くらいは光も優しくしてやればいいのになんて思っていると、教室の引き戸を控えめにノックする音がした。


「入れ。」


光が応える。
そして入ってきた人は茶色いサングラスにスーツでビシッと決めた男の人だった。
きらりと胸に付いている金色のバッチが光る。



「光さま。お待たせして申し訳ありません。ご所望の物をお持ち致しました。」


ご所望?
ってか誰っ⁉


「こっち持ってきて。」


光は何の躊躇(チュウチョ)もなく命令した。
サッとスーツの男の人が光のもとへ何かを持ってくる。


「・・・光。その人誰?それは何?」


「僕付きの護衛。これは救急箱。」


「いつの間に・・・」

さっき携帯をさわってたのは、これを持ってきてもらう為だったのか。


「このくらい大丈夫なのに。」


鈴音はちょっと面倒くさげだ。


「はっ?ホントは病院に連れて行きたいくらいだよ。傷に菌が入って、化膿したら大変だろ?」


私と鈴音は顔を見合わせる。
青痣はたくさんあるが、傷はちょっとした擦り傷しかない。


あっ、そうだ。
光って世話焼きだけじゃなく、心配性でもあった。

なんだかんだ言いながらも鈴音の事、仲間だと認めているのかもしれない。
光は根本の性格が世話焼きであっても、どうでもいい人にそこまでするほど優しいわけでもないからな。

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