検査も終盤にさしかかり
カルテを書く俺にリコちゃんが話し掛けてきた
『ケンジさん、入学祝もらってないよ…』
ああ。あげるねって約束した。でも、あれから姿をみせなかったくせに。
『俺、ケーキ買って待ってたのに、全然こないから腐ったんだよ』
リコちゃんは大きな目をくるくるさせて
『うっそ。ホントに?』
『嘘だよ…』
二人で笑った。
『ケンジさん、お祝い、今日欲しい。』
『え〜。困ったな。何も用意してな…』
不意に彼女が顔を近付けて…その唇が俺の唇に触れた。
甘い…味がした。
意識が飛んでしまいそうな瞬間だった。
そっと離れていく唇が、もう一度欲しくて、俺から…もう一度触れた。
胸が苦しくなった。
この子が…俺の心に入り込んで…戻れない道を歩き始めた瞬間だった。