私の彼は20才の高校生

この雲は、今京一の住んでいる町に流れて行くのだろうか?



又ため息をついた。



数馬がこっちを見る。



「そんなにため息ついたら、幸せになれねぇぞ。」



「私幸せなんて望んでないし。それに・・・ 」



言うのを止めた。



私の叶わない恋。



これ以上の不幸はない。



もう誰も好きにならないし、恋愛なんて絶対無理。



「あずみなんて顔をしてんだよ。」



答えたくない。数馬の顔なんて見たくない。



「私に話しかけないで。」



そう言うと数馬が席を立ち、私の前に来る。



「素直になれよ。」



私の顔を覗き込んで、私の唇に数馬の唇が触れた。



私はあまりの驚きに声も出ない。



数馬は笑いながら、「外国じゃこんなのあいさつだから。」



ここは外国じゃない。日本だから、私は数馬を睨み付けた。




私が睨んでいる事など数馬は気にしない。



「もしかしてあずみのファーストキスだったりして!」



よけいに頭に来た。



「いい加減にして。私に構わないでよ。」



数馬は私が怒ってることなど全く気にせず、



「あずみは笑っている方が可愛いのにな!」



数馬の言葉にはっとした。そういえばここ最近笑ってないかも。



あの日京一に抱き締められ、キスされた時から笑えなくなった。



私は京一の事忘れたくて、彼氏を作った。



前から私を好きと言ってくれた、同級生の田宮元。



身長も私より高く、本当に優しくて私を大切にしてくれた。



だけどあの日私の部屋に初めて来た時、



いきなりベットに押し倒され、無理矢理キスしょうとした。



私は驚いて、思わず叫んでしまった。



「いやぁー止めて!」



その叫ぶ私の声と同時に、京一が私の部屋に飛び込んで来た。



ベットの上で私にキスしょうとした元の胸ぐらを掴み殴りかかる。



殴られた元が跳んだ。



京一が私を抱き締めた。



そして京一の唇が私に触れる。



涙が溢れた。




今も忘れられない。



私は京一に抱き締められたまま泣いた。



京一は、「ごめん。」と言って私を抱き締めた手を離し部屋を出て行った。



それから、京一は彼女とは別れたらしい。



でも私に対しては、以前と変わりなく兄として接していた。



私の気持ちは何処へ行けばいいの?



京一に好きと言いたい。



もしかしたら、京一も私を好きでいてくれるのかも知れない。



そんな淡い期待を持ったりしたが、



京一はあれから、私と二人になる事を避け続けた。



そしてこの春、京一は東京の大学へ行く為この家を出た。



その時京一は、「あずみの事はずっと妹として好きだから。」



だったら何故キスなんかしたの?でも怖くて私は聞けなかった。



もうこれ以上嫌われたくなかったから。



我慢をした。



もう笑う事なんて出来ないよ。




さっきから数馬がこっちばかり見ている。



「あずみ何で外ばかり見てる?」



数馬の問いに答える気にはならなかった。



私は机に顔を伏せた。



授業中寝た事などなかった私だが、



今日はなんだか眠れそうだ。



数馬が又何か言ってる。



でも私は完全に眠ってしまったようだ。



一時間目が終わるチャイムが鳴る。



一時間目は夏目先生の国語だった。



夏目先生が、「授業中に森川が居眠りするなんて珍しいなぁ。」



その声にはっとして目が覚めた。



回りを見渡しびっくり顔の私に、



数馬が、「あずみ良く眠れたようだね。」と微笑んだ。



その優しい顔に私は一瞬見とれてしまった。




休み時間に、中学時代から仲良しの前田美香が私の隣に来た。



「あずみどうかした?授業中に居眠りなんかした事ないのに。」



私は少し考え、「なんか今日色々あって疲れたちゃった。」



美香が隣の数馬を気にしている。



数馬がこっちを見て、「あずみの友達?」って聞いた。



美香は嬉しいそうな顔で、「はいそうです。確か佐伯数馬さんでしたよね。」



数馬が、「ああ。」



「佐伯さん私たちが青葉に入学した時、確か三年生でしたよね?」



えっ。私は美香の言葉で眠気が覚める。



私たちが入学した時、三年生に数馬がいた?



だったら京一と同級生?



京一は一年浪人をして今年大学に入った。



数馬は京一を知っているのだろうか?



聞いてみたい。



たけど、今の私には聞く勇気がない。



私は美香の話しを聞く事にした。




「私覚えてるんです。あずみのお兄さんの京一さんが生徒会長で、


数馬さんは確か副会長でしたよね。」



数馬が私を見た。



すぐ私から目を反らし、「あぁそんな事あったかもな?」



私は自分の記憶を張り巡らした。



確か京一は生徒会長をしていた。



だけど副会長の数馬がいた事は覚えていない。



こんな目立つ顔一度見たら、忘れるはずないのにな。


美香が話し続ける。



「あずみのお兄さんの京一さんも素敵だったけど、


私は数馬さんがいいなぁって思ってたから。」



美香の顔が赤くなる。



そんな美香を可愛いなぁ。と思う私。



美香は小柄でお人形さんみたいに可愛い。



誰が見ても守ってあげたくなるタイプ。



美香は私の容姿が羨ましいらしいけど、



私は素直に喜べないでいる。




美香は聞きにくそうに、「どうして二年も留年したんですか?」



美香の大胆な質問に私は驚いた。



数馬も少し引いたようだ。


さっき担任が数馬を紹介した時、



家庭の事情とか言ってたような気がする。



他に何かあるのだろうか?


数馬が私を見た。



私が目を反らそうとすると、「あずみに話して無いことがあるんだ。」



何?今美香が質問してるんだよね。



何で私に話す訳?



美香が困った顔をして私を見た。



数馬は、「俺の留年の理由だろう。さっき担任が言ったとおり。


家庭の事情で、海外にいたからね。」



ふーん外国にね。だからなんでもする事が大胆な訳ね。



「俺あずみとは、今日が初めてじゃないんだ。


二年前にも会ってる。」



数馬の言葉に答えられない。



だって私覚えてないもの。



私と数馬が二年前に会ってる?



いつどこで?



私にはまったく覚えがない。



「あずみなんて顔してんの。」



数馬が呆れた顔をする。



「多分あずみは覚えないと思う。」



美香が何か思いだしたように話し出す。



「もしかして、二年前にあずみが京一さんにお弁当を届けた時、


同じ教室に数馬さんいましたよねぇ。

あずみから数馬さんがお弁当を取り上げて、


俺がいただくよ。とか言って。」



そんな事あったっけ。



京一にお弁当届けた事は何回かあったが、



まったく覚えていない。



その時数馬がいたなんて分からない。



あの頃私は京一しか見ていなかったから。



悪いけど数馬にあった事なんか忘れてるよ。





「美香ちゃん覚えがいいねぇ。あずみとは三回は会ってるよ。」



三回も?なのに私は覚えていない。



「二人切りでもあってるし。」



何?その意味ありげな言い方は。



悪いけど覚えてないや。



「まぁ二人切りの時は暗かったし、俺の顔を見てなかったかもな。」



一体どういう事ですか?



又美香が、「あっ!あずみがあのストカーにあった時助けた人が、


もしかして数馬さんだったの?」



「はぁ。何であずみが覚えてなくて、美香ちゃんが覚えてるんだよ。」



又呆れた顔の数馬。



だってあのストカー思い出したくもないしさ。



あの時そう助けてくれた人の顔は見てない。



つぐその後に京一が来て、


私の事抱き締めてくれたのは覚えている。



「あずみ本当に覚えてない訳? 」



「うん。」



「あり得ねぇだろうが、あん時あいつナイフ持ってたし、


かなりやばかったぜ。」



そう言えば何か光る物を持っていたような気がする。


「ごめん。」としか言えなかった。