その日も何とか部活を終えて、俺はふらふらと自転車をこいでいた。

田舎だったから、日が沈んだらすでにあたりは真っ暗で、遠くで犬が吠えているのが聞こえていた。


空もなんとなく曇っていて、あまり良い気分でなかったのをはっきりと覚えている。



田んぼ道をひたすらまっすぐ進んでいくと、その先に人がいるのが見えた。
といってもシルエットが見えただけだ。

道路の真ん中に突っ立って、動かず、どうもこちらを見ているようだったので、俺は不思議に思ったけれど、すれ違ってしまえば一瞬で追い抜けると思って、そのまま自転車をヨコにずらした。


近づいてみると、それは若い女で、そんなに寒いわけでもないのにコートの襟を立てて、フードをかぶり、半分顔を隠していた。



「薄田(すすきだ)ユギトさんですね?」


その女は、確かに俺にそう声をかけてきた。

俺はびっくりして、思わず自転車を止めた。そんなに大きな声を出しているわけでもないのに、彼女の声ははっきりと俺に届いた。