そういうわけで、俺は高校三年間を、友だちも作らず、恋人なんてもってのほかで、他人に対してびくびくしながら暮らしていた。

これでも社長令息だったから、それまでまわりの人間は、俺に対してよくしてくれた。それが、オヤジのおかげただそれだけだったことに、事件がなかったら、気づけていただろうか。



俺は考えて考えて考え抜いて――大学に進学した。
選んだのはよりによって文学部だった。



オヤジの跡を継ぐ…ことはもう出来ないけれど、同じくIT業界に就職するため、経営や経済を学ぶべきかと思ったけれど、それより俺は、本を読んだり、演劇を見たりするほうが好きになっていた。


それは、高校時代、友だちを作る事をあきらめて、本ばかり読むようになって、それが意外と興味深かったからかもしれない。
小説家になりたいとか、そう思ったわけではなく、将来のことは、全く考えていなかった。

どんな職業についても、きっとそこに人間関係があり、恨み、妬み、愛情、同情などさまざまな感情があるのだろう。
それに耐えられる自信が、そのときの俺にはまだ、なかった。