店を出て人ごみの中に混じる。この人の多さは、流石東京だ。
スクランブル交差点はなんて渡りにくいのだろう。それに東京の人は、歩くのが早い気がする。こんな事を言っているあたしも、東京生まれ、東京育ちの東京人だけれど。
生まれてきて14年。14年も東京に住んでいるのに、人ごみに慣れることはまだできていない。
どうしても人ごみは苦手、とことんあたしは東京人らしくないと思う。歩くのだって、遅い。ということは走るのだって遅い。まぁ、関係ないかもしれないけど。



これだけ人がいるのに、宮城 恭哉のような良い声の持ち主は一人もいないみたいだ。
すれ違う男の人たち全員、あたしの耳にピンと来る声ではない。
こんな偉そうなことを言えるほど、あたしも良い声の持ち主ではない。無駄に声が高くて、あまり自分の声は好きじゃない。

あぁ、なんだか一人でこうやって歩いていると、くだらないことばかり考えてしまう。
自分の声なんてどうでも良い。そんな事、考えたって何の意味もないでしょう。
でも人間というものは最高に変な生き物で、くだらない事ばかり、何度も考えてしまいがちだ。特に、あたしなんかは。
だけどなんとなく、くだらない事は嫌いじゃなかった。むしろ好きだ。
くだらない事をしていたり、考えている余裕がある自分は幸せだと思うから。



そんな事をぼーっと考えていたら、あっという間に家についていた。