ささっと、でも少しだけ丁寧な字で自分の名前と連絡先、そして欲しいCDの曲名とアーティスト名を書く。
そして、隣で書き終えるのを待っているあの人へと渡した。

「ありがとうございます。今度、俺が連絡しますね」

用紙の一番下の【担当者名】という欄に、男の人はしっかりした字で【宮城 恭哉】と書いた。
そういえば胸元にあるネームプレートには【宮城】と書かれている。
自分の中で、この男の人が【男の人】から【宮城 恭哉】に変った事が何故か嬉しかった。

「またお客様とお会いできると思うと、嬉しいです」

ボールペンをポケットにしまうと、低くてうんと落ち着いた、だけど明るい声で宮城 恭哉は言った。こんなにドキドキするのは久しぶりで、たとえこれがただの接客だとしても、嬉しいことに変りは無いと思う。