「俺も好きなんです。その曲、そのバンド」

あたしとこの男の人にこんな共通点があるとは、思ってもいなかった。
男の人は「もしかして」と言い、今までずっと棚の整理をしていたのにレジのほうへと急ぎ足で向かった。
レジでその男の人と同い年であろうと思われる女の店員に何か言っている。
もしかして、あたしの愚痴を言ってたりするのだろうか。「あの客なんだよ。何言ったってシカとだよ。本当に、嫌になっちゃうよ」なんて。
流石に、無視しすぎたのかな、あたし。そりゃあずっと無視されたら他の店員に愚痴をこぼしたくもなるか。
その男の人は、さっきの女の人から何やら紙を貰っていた。するとまた、あたしの隣へやってきた。

「はい、どうぞ。きっとお客様がお探しになってるのは、Locksの新曲ですよね」

そう言ってポケットからボールペンを出し、紙と一緒にあたしに渡した。
その紙には、【注文用紙】と青で書かれている。
さっき女の人と話していたのは、この用紙のことか。

「その紙に、お求めのCDと、連絡先を書いていただけたら入荷した時に連絡します。便利なものでしょう」

なんだか、この人にはあたしの考えてることが丸分かりのようだった。
Locksの新曲が欲しいことも、この注文用紙が欲しかったことも、全て。