「いらっしゃいませ」

お昼過ぎぐらいにあのCDショップに入ると、まず最初に聞こえてきたのは若い女の人のよく通る声だった。こういう店員とかは、あたしにはできない仕事だなぁと感じる。

宮城 恭哉はレジの奥にあるスタッフルームから丁度出てきた。
あたしが店に来たことに気づくと「こっちにおいで」と手招きした。前から少し思っていたけれど、接客態度が悪い、だとか店長に怒られたりしないのだろうか。

「やっと、来てくれましたか」

宮城はそう言って、安心したような顔を見せた。一体何に安心したんだろう。あたしの事なんか、ほとんど気にかけていないはず。

レジの一番はじで「少し待っててください」と言われ待っていると、頼んでいたCDと前に書いた【注文用紙】を持ってきた。この人の名前が宮城 恭哉だと知ったのはこの紙がきっかけだったっけ。


「これで間違いありませんよね。Locksの新曲の『ベンチ』」

そう言われてあたしは頷いた。表情には出ていないと思うけど、かなり興奮している。好きなアーティストの新曲が手に入る時、あたしは本当に嬉しかった。