もう、電話を切らなきゃ、受話器を置かなきゃ。
そう思ってあたしは、受話器をそっと耳から離した。ずっと受話器を当てていた右耳だけ、少しじんじんとしている。

「お客様」と言った宮城の声が、受話器を耳から離しても聞こえてきた。受話器を置こうとした手を、もう一度じんじんとしている右耳に戻す。

「何か、つらいことでもあったんでしょうか?泣きたい時は泣いても良いんです。こらえないでください。そんなの、もっとつらい」

そう言われた瞬間、やっぱりこの人にはなんでもお見通しなのかもしれないと思った。
あの時だって、今だって、あたしが考えていること、思ってること、全部この人には分かるのかもしれない。
安心感が、ずっと声を出すのを拒んでいた喉を通っていく。