「では、明日のご来店お待ちしています」

今の宮城の声は、仕事モードの声だとすぐ分かった。
少しの甘みもない、爽やかさだけをまとったミントみたいな声だ。
あと何秒、電話していられるのだろう。今切ったら、明日までずっと声は聞けない。
本当なら、今切らなければいけないのだけど。なんて物分りの悪い人間なんだろう、あたしは。


「お客様?」

そのまま電話を切れずにいると、宮城の声が聞こえた。一段と優しく聞こえたのはなんでだろう。

「・・はい、ごめんなさい、電話切らなくて。宮城・・さんには、他にもお仕事がある、のに」

声は震えているし、きっと宮城 恭哉を困らせているし、馬鹿な自分がムカついてきて、自分にいらいらして、涙が出そうになる。こうやって、すぐ泣きそうになる自分があたしは大嫌いだった。