あっという間に先ほどテレビで放送されていたイルミネーションの場所へ着いた。



雪哉はバイクを停めるとまだ遠くに見えるイルミネーションに見惚れている杏梨に手を差し出した。



素直に手を差し出すとぎゅっと握られて杏梨の胸はトクンと高鳴った。



寒いはずなのに頬が火照って熱い気がした。



「帽子が曲がっている」



空いている手でヘルメットを脱いだ時にずれてしまった毛糸の帽子の位置を直してくれる。



「ありがと」



少し歩くとそこは一面、ブルーのイルミネーションのシャワー。



「きれーい」



その声が大きかったせいで周りのカップルの注意を引いてしまう。



(ねえ、見て?男同士で手を繋いでいるわ)



(じろじろ見るなよ)



(いいじゃない すごく堂々としているのね 今流行のBLってやつかしら)



近くに居たカップルの話が聞こえてくる。



その会話はすぐに自分たちの事だと杏梨は分かった。



急いで雪哉の手から手を引き抜く。



「どうした?」


ゆきちゃんにはあの人たちの会話が耳に入らなかったんだ。



そう思った時、雪哉が微笑んだ。



「お前はどんな格好をしていても女だ 周りの事を気にする必要はない」


そう言ってもう一度杏梨の手を握った。



「ゆきちゃん……」



杏梨はコクッと頷いた。



そして何事もなかったかのようにイルミネーションを鑑賞し始めた。



一つ一つのイルミネーションのオブジェを見ながら驚いたり喜んだりしている杏梨を雪哉は見ていた。



お前が女に戻る日はいつ来るのだろうか。

そう長くない事を願う。


先日、父親の海外赴任が決まった。


付き合っている女性、つまり杏梨の母親とこの機会に結婚したいと告げられた。


2人が結婚すれば俺たちは義兄妹となる。


そうなればお前は俺の事を兄として接するのだろうか。


将来好きな男が出来て俺から離れてしまうのだろうか。



「くしゅん!」



杏梨の大きなくしゃみに我に返る。