「すみません」


その眼光の男に、声をかけていた。気付いたら。何をしているんだか。雨は変わらず降ってるし、劇場は既にしまっている。ギロリ、男は反応した。

「何ですか」


男は憎々しい表情、いかにも肉食といった風貌だった。女にもてそうではない。だが、よく見ると整った顔をしていた。ちょっとその辺では見ない顔だ。

それに敬語だ。意外と悪い人間ではないかもしれない。

「雨宿りですか。どうぞ」


隣をどうぞ。横に半歩ずれ、一人分スペースを作る。男は一度目を上に向け考えて、のそのそと空白に滑り込んだ。


「寒いですか」

「そうですか」

「そうですよ。寒くないですか」


男は黙った。