気付いたら歩き出していた。妄想じゃないリアルな冷たさが肌を刺す。でも、別に悪くはない。


不意に男の視線に気付いた。20代後半か。若くもなく、年寄りでもない、中途半端な年齢だ。中途半端な目をしている。何も、映してないような、その目が、不可解そうに、こちらを見ている。


もしかして、気づかれたのだろうか。


不意に不安が生まれた。自分はうまく歩けているだろうか。


そうだ、たしかに。たしかにそうだ。


でも、もう止められない。歩き出してしまったのだ。それに、恐怖はないのだ。何もかも、悪くはない。きっと、よくはないだろうが、それでも悪くはないほうがいい。とにもかくにも、これをしないと、何も進めない、何も変わらないのだ。



ちらと、こちらを見ていた男を見る。蒼白、痩身、草食獣のような風貌だ。草食でも獣は獣なんだが。後々、その失念に気づくこととなる。