「そんなに呑気に構えていては締め切りになって慌てる事になるぞ。ヨミは優柔不断だからいけない」
「俺が呑気なんじゃない。お前がせっかちなんだ」
とやると、ゲン―彼はゲンと呼ばれていたのです―は、ただ笑いました。

しかし、言われてみれば後々慌てるのも嫌だと思い、お前なら何がいいと思う、と彼に聞くと、
「お前はヨミなんだから黄泉の国でも描いたらどうだ」
と今思いついたような事を言います。
「適当だなぁ」
と私は笑い飛ばしましたが、ゲンは辺りを見回して、ほら、ちょうどいいものがあるぞ、と顎でそちらを差しました。

見ればそこには彼岸花が咲いていました。

その存在を誇張させるように群れをなして在るそれは、木陰の暗いのに個の強すぎる赤と緑で醜悪な色を添えて陰を際立たせるようにしていました。
ゲンはそこに歩み寄って一つ手折り、私に差し出しました。

「彼岸花には毒がある。食えばあの世に行くんだから黄泉にはちょうどいいだろう」

私はあもうんもなく手渡されたそれと彼の顔を交互に見やり、

「そんな物をどう描けというんだ」
と聞くと、
「そこはお前のこれで何とかするがいい」
そう言って胸を叩いたぎり、彼はすたすたと歩き始め、私も彼について進みました。