そうなのだ。

この絵は処女作でもう何十年と昔に世に出て先生を画壇に連れ出した絵である。

だというのにこの絵は未完成なのだ。

「彼岸花ですか…」

先生はソファに身体を沈め、しばらく目を閉じ、そしてもう一度、画集を覗いた。

僕はその動きの全てを注意深く見ていた。
まるで気に入った芝居を見るように。

ややあって。

「彼岸花は、やめませんか?」

先生は一言そう言った。
僕は耳を疑った。