栞を挟んだり付箋でもつけておけばよかったのだが画集にそういうものを貼ったり挟んだりするのはなんだか無粋な気がしてしてこなかった。

僕は何度もページを繰り直し、そうしてようやく見つけ出したページを先生に向ける。

先生の目線が画集に落ちるのを見ながら、僕は気持を整える。

「先生の処女作である彼岸花です」

この時。
にわかに先生の表情が曇ったような気がした。

しかしその時の僕はそんな表情の変化を気に留める事もなく話を続ける。

「女性画を得意となさる先生の作品はどれも美しい女性ばかりですが、その中でもこの絵は特に目を引きます。何というか生命力が溢れていて、力強い。そして何よりも気になるのが」

そこで僕も画集の女性に注視した。

「この絵は今もなお瞳が書き込まれていない」