そうしてそのままどれほどか過ぎた頃、すう、と襖が開く音が私の意識を起こしました。

うやむやとする中でそちらを見ると、青白い女が部屋へ入ってくるのが見えました。

辺りも寝静まり、この部屋にも明かりが漏れてくることはない時間です。

幽霊か、と思いましたが、そんなはずはない、とその考えをうち消すように、私はしきりに目を瞬かせました。
大学生なんぞそこかしこにおって権威も何もない時代に居るあなたは可笑しいと思うかも知れませんが、私の頃は大学生になれるというだけで選民意識が働くような、そんな時代だったんです。

だから大学生ともあろう者が幽霊などと言う田舎じみた迷信を信じてはいけない、と思ったんです。
私はそういうところで凡庸でした。
あるいはゲンならまた別な事を言ったでしょうがね。

話がそれましたね。

そんなふうに目を瞬かせているうちに、これは女郎さんではないかという常識的な判断に思考が落ち着きました。
でもそうなると何故女郎さんがわざわざ部屋に来たのか見当がつきません。
今までそんなことはありませんでしたし、そもそもがここに来る理由もないのですから。

女郎らしき女は音もなく動いています。
結わずに肩に垂れた髪が動きにつれてふわふわと揺れます。
寝間着の袖が小さく衣擦れてかさりと音をたてます。

私は身体を起こさずに、寝たふりをしながらその様子を伺うことにしました。