ああ、可愛い……と、そんなことを思っている場合ではない。

 湖子に話していないことは、まだまだあるのだ。

 すでに話したことへの説明は湖子に任せても十分事足りるけれど、私しか知らないことを相手にしては、そうもいかない。



 わかりやすく説明するのって大変なのに……。

 ああ、胃に穴があいたらどうしてくれよう。

 この時代、胃薬なんて効かなさそうな物しかないだろうし……。



 自分の胃を心配しながらも、私は現代を便利だと改めて思った。



「簡潔に申し上げますと、蘭花が生きていたのは」


「ちょっと待って湖子。私まだ死んでないんだけれど……」



 生きていたのは、と言われると、何だか自分がもう既に死んでいる人のように聞こえてしまう。

 いくらなんでも、それはあまりにひどい。



「言葉のあやだから、気にしないで」


「…………」



 気にしないで、といわれても無理以外の何物でもない。

 けれど、気にしない方が、精神的に正しいのだろう。

 自分を半ば無理矢理納得させた。



「気を取り直しまして。蘭花が以前居たのは、今から千四百年弱ほど先の時代でだそうです。その時代は、今とは礼儀作法も文字も慣習も政治制度もひどく違うそうなので、蘭花はこの時代について、ほとんど無知であると言ってもよろしいでしょう」


「それで?」