なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。

 どうしてどうしてどうしてどうして……。



 湖子が何を意図してそんなことを口にしたのか。

 私には皆目見当がつかなかった。

 そして、それゆえに私は混乱の渦の中にいた。



「湖子っ! 私は、そんな……っ!」

「へぇ……なるほどねぇ」



 堤巳兄様に見据えられ、ビクッと体が反応した。

 まるで、私の中を見透かそうとでもするように細められた目。

 蛇に睨まれた蛙の心境が、心底よくわかってしまった。



「ち、違います兄さ」


「違いませんわ。蘭花様……いえ、蘭花。正直に話しましょう。堤巳様は、これぐらいで態度を変えるような方ではありません」



 『そうでしょう?』とでも言うように、湖子は堤巳兄様に向って小首を傾げた。

 さっきとは、本当に立場が逆になってしまった。

 今度、堤巳兄様に確認を取っているのは湖子で、それを青褪めながら見守るしかないのが、私。

 対応して、堤巳兄様は先ほどの表情からは百八十度違う、苦笑いを浮かべていた。



「そこまで言われると、頷くしかないね」


「けれど、本当のことでございますわ」



 確信をもったように迷いなく頷く湖子。

 彼女を見て、堤巳兄様は苦笑を真顔に変えた。