油断していた。
まさか、湖子が堤巳兄様に向って、こんなことを訊くなんて……。
私は夢にも思っていなかったから。
「堤巳様、二千年後の未来というものを信じますか?」
だから、私は湖子がこう口を開いた時、飲んでいた水をブッと噴き出しかけ、寸前で堪えた。
反動で、ゴホゴホとむせてしまう。
けど、今問題にすべきはそんなことじゃない。
「湖子、あなた何を……っ!」
「うーん、そうだね。唐土は何千年もの昔からあるというから、我が国の二千年後も信じてる、かな。いきなりどうしたんだい?」
私の声を遮るように、堤巳兄様は飄々とした態度でそう答えた。
その様子はどこか面白がっているようで、黒の瞳が悪戯っ子のようにきらりと輝いている。
「いえ、……信じられないような話ではあるのですけれど、千四百年ほど先の未来から来たという方がいらっしゃるのです」
「へぇ……非常に興味深いね。誰だい?」
「……蘭花様にございます」
バラされた!
湖子、なんで堤巳兄様に……っ?!
私の脳内は、今はもう疑問符で溢れ返っていた。