これは死活問題でもある。
なんとしても、堤巳兄様のスパルタ教育だけは、これ以上過酷にしてはならない。
ちなみに、現状が“こう”であるのは、もう諦めた。
「それにしても、たった一日で礼儀作法の基本が何とかなったのには驚いたよ。字に関してははまだまだだけどね」
「はぁ……。っ! お、おそれいります」
気の抜けた返事だけにしようかと思ったら、瞬時に堤巳兄様の目がキラーン光った。
慌てて、淑やかに深窓の姫君らしい礼をすると、堤巳兄様の満足気なクスッという笑い声が聞こえて、ホッとする。
危ない危ない。
「ま、礼儀作法に関しては、湖子殿のお手柄かな」
「はい……彼女も、とても厳しいですから」
「ふふ、だからこそ今、礼儀作法だけは何とかなっているのだから、感謝しなければならないよ」
「わかってますよ……」
「そう? ならいいんだけどね」
やっぱり、堤巳兄様は意地悪でスパルタだ。
特訓中も、頭の上に本を重ねてゆっくり歩くだけで精一杯の私に、飛び跳ねろだの、クルリと回れだの、椅子に座れやっぱり立ていややっぱり座れだの、そんな鬼畜きまわりないことを平然と言ってのけた。
逆らっては身の破滅。
理不尽でもとりあえず耐えておくべし。
それをヒシヒシと体で感じた一日だった。