「そうかもね。そろそろだろう。湖子は蘭花ちゃんの専属かい?」
いきなりの話題転換にも、ツツミ兄様は面白がった笑顔のままついて来た。
さすがは、真人お父様の息子、だと思う。
「はい、そうです」
「彼女、なかなかだろう?」
「私にはもったないほどに……」
「うーん、今の君には彼女くらいの人間がそばにいた方がいいからね。父上の采配は正しいよ」
それはどういうことだろう。
それを訊こうとした時、ちょうど扉がノックされた。
「なんだ」
「湖子、お呼びにより罷り越しましてございまする」
「お入り。他の者は下がっていいよ」
「はい」
カタッと音を立てて扉が滑るように開けられ、コップ三つが載せられた盆を持った湖子が一礼して入って来た。
ツツミ兄様は、機嫌良さそうに湖子を手招きし、私に向かってにっこりと笑いかけた。
……邪気のない笑顔って、面白がってる笑顔より何億倍もマシだわ……。
しみじみとそう思ってしまった自分に悲しくなった。
私は心の中で、そっと目じりをぬぐった。