「蘭花ぁぁぁあああっ!!」



 ポロポロと涙を零しながらむせび泣く養父を前にして、私はどうすればよいのか、とんと見当がつなかった――。









「ええと、お父様。別に何もなかったのですから……」


「ええーい! それはただただ運が良かっただけなのじゃ……。可愛い蘭花のことじゃ。どこぞの悪い男に目をつけられてもおかしくないわいっ!」



 可愛いという形容詞は、私よりも湖子の方がはるかに似合うと思うんだけど……。



 けど、とてもじゃないがそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。

 あまりの剣幕に、たじたじとなってしまう。



 これがあの優しいのほほんとした真人お父様だなんて……。

 信じられない。

 むしろ信じたくない。



 どこぞのお化け屋敷で幽霊の役をやっていても違和感がないくらいに、今の真人お父様はおどろおどろしい雰囲気を背負っていた。



「そんなことはないと……」


「えーいえーい! 油断大敵なんじゃいっ! よいか、蘭花。今後外出するときは、湖子だけでなく、余裕があれば舎人も幾人が連れて行くのじゃぞー!!」



 とねり?

 トネリって何だろう。

 後でこっそり湖子にきいてみよう。