小野真人邸の近くであるらしい紅葉した木の葉を多くくっつけた大樹の下。
そこに立ってオロオロとしていた湖子を見つけたのは、壮絶なる舌戦を一時中断した男だった。
「あの者は?」
「あ……湖子っ!」
「ら、蘭花様っ!」
湖子だと確認して、すぐさま後ろの男を振り返った。
心得たように、彼は馬をその場に止めると、スルリと馬から降りた。
まるで、水のように自然な、流れるような動作。
けれど、今はそれに構っていられなかった。
差し出された手を素直に取り、降ろしてもらう――。
と、走り寄って来た湖子にヒシッと抱きつかれた後、前後にゆさゆさと揺すぶられた。
ああ、脳内がシェイクされる……。
「蘭花様ぁぁあっ!」
「湖子……」
「なぜいきなり居なくなられるのですか! わたくしの心中を少しは慮ってくださいませ! わたくしを白髪にさせるおつもりですの?!」
「ご…………ごめんなさい」