「う、わぁぁぁあっ! きゃぁぁああ! 高い高い怖いーっ!」
「うるさい」
そんなこと言われても、いきなり腕引っ張られて、目線が変われば、びっくりするに決まっているでしょうっ!
そう。
私はもう既に、馬上の人だった。
ただし、横座りで、男と馬首との間の位置に、だけれど。
馬に近づくと、秋の優しい日差しと馬の体温によるぬくぬくとした感じとともに、馬特有のなんだかヘンな匂いがした。
けれど、剣道部の道着の匂いといい勝負くらいだ。
ていうか、腰痛い……。
パカポコと馬のひづめが地面を蹴るたびに、骨に響くような衝撃が走る。
ゆっくり走っている、ということは、素人でもわかるけれど……。
でも、やっぱり乱暴すぎる、この人。
やっぱり『イイ人』なんかじゃないっ!
けれど、馬に乗せてくれたのは間違いなく善意だろう。
それには、感謝しなければならない。
この人が声をかけてくれなかったら、私はずっと迷子で、あげくの果てには遭難死していたかもしれないのをまぬがれたのだから。
「……乱暴な面もあるけれど……でも、ありがとうございます」
「初めからそう言えばよいものを……」
何やら、ブツブツとお小言になりそうな気配がした。
急いで、かわいこぶってみる。
手本は、まり子の、『対・父親、おねだり時』の言動だ。