ああ、朝廷に出仕するって言ってたから、それって仕事の時の服のハズなのに……。



 涙でどんどん濡れていく袖が、すごく哀れになった。

 チクリ、と罪悪感に串刺しにされるかのように、胸が痛む。



「な、泣かないでください……。わかりました、わかりましたからっ!」



 そう、少し声を張り上げて言うと、真人お父様は袖から顔をあげた。

 そして、またほのぼのとした笑顔を浮かべた。



 癒し系だなぁ~。

 私の方が身長がわずかに高い、というのもあるのだけれど、真人お父様はマイナスイオンでも持っているのかと思うほど、見ていると何やら癒しパワーをくれるのだ。



「なら、よいのじゃ……。蘭花」


「はい」


「楽しんできなされ」



 ほっこり、ココアでも飲んだ後のような穏やかな気持ちになった。

 心配されるというのは心苦しいことでもあるけれど、その分自分のことを思ってくれているということでもあるから、悪い気はしない。

 申し訳なくはあるけれど。



「はい! では、失礼いたします。お父様、お仕事がんばってください」


「もちろんじゃ」



 にっこり笑った真人お父様。

 この人には、穏やかな笑顔が一番似合う。



 そんなことを考えながら、準備をするため、私は自室へと戻った。