そう頷いた湖子さんを見て、ハッと気付いた。

 今、私は背もたれのない丸い椅子に座っているけれど、湖子さんは立ちっぱなしだ。

 むくんでしまうし、痛くなってしまう!

 現代で立ち仕事のバイトをしていた時の筋肉痛という名の苦すぎる苦労を思い出してしまった。

 この記憶はできれば思い出したくなかったけれど。

 その翌日、遊びに行こうとしてブーツに足を入れようとしたが足がパンパンに腫れていたせいで泣く泣くスニーカーに履き替えたという後日談までもが一緒に思い出されてしまった。

 あんな思いはもう絶対にしたくないし、誰かにさせたくもない。



「あ、その前に、座ってください。長くなると思いますから」


「しかし……」



 四角い机を挟んだ椅子を勧めるけれど、案の定、湖子さんは難色を示した。

 けれど、ここで負けるわけにはいかない!



「お願いしますっ」


「……かしこまりました。失礼いたします」



 ストンと腰を下ろした湖子さんの背筋はピンと伸びていて、本気でモデルさんか誰かのようだ。



「それで……ウネメって何?」


「ウネメとは、わたくしたちのように、中央の皇族や豪族の方々にお仕えする女のことです」

「……じゃあ、この屋敷の他の女の人たちも?」



 本当は、『家政婦は見た!』という感じのことがあるのかどうかも訊きたかったけれど、理性で押しとどめた。

 ここは、そもそもの話、家政婦って単語が通じないんだよね……。



 しみじみとそう思うのを最後に、私は思考を切り替えた。