「 ここ、狭いよな? 」
そのまま違う部屋まで運ばれて
優しくベッドに降ろされる。
「 今日から、ここがお前の部屋 」
「 ・・・・え? 」
「 俺には、話せないだろ?
思ってること、紫にでも
全部吐き出せよ 」
”俺は無理に聞かないから”
と 目で訴えて、
くしゃりとあたしの頭を撫でる。
その優しさに胸がぎゅっと
締め付けられる。
───────────他人なのに。
「 どうして・・・ 」
「 え? 」
「 他人でしょう?
あたしは貴方を知らない。
貴方もあたしを知らない。
それなのに、どうして
そんなに優しいんですか・・! 」
今、貴方に言っていいのか
言っちゃだめなのか。
あたしには分からない。
けど、この場でないと
絶対に言えないと思った。
驚いた顔をした彼は
しばらく黙り込むと
ベッドに腰を下ろした。
「 ・・・・他人だったら、何? 」
「 え? 」
想像もつかないその返事。
彼は振り向いて、あたしの
顔の横に腕をつくと、
真っ直ぐとあたしの目を見て言った。
「 4日も経ってる。
お前は他人だと思ってても
俺はそうは思ってない 」
「 ・・・どういう・・・ 」
「 何で泣くんだよ。
もうどうでもいいって顔して
何がお前を苦しめてんだ? 」
4日。
たった4日で、あたしを
ちゃんと知ってくれてる。
何よりも、”他人じゃない”と
力強く言ってくれたことが
嬉しくて また泣きそうになる。
「 ・・・・辛いんだろ? 」
「 ・・・・ッぅ 」
「 泣くほど 辛いんだろ?
痛くても泣けなくなるくらい
今まで辛い思いしてきたんだろ? 」
────────────龍弥さん・・
「 俺は待ってるから。
お前が話せるようになるまで 」
優しい手つきであたしの頭を撫でて
指先で涙を拭うと、携帯を出して
”紫、呼ぶ”と携帯を耳に当てた。
「 ・・・呼ばないで・・ 」
「 ・・・え? 」
「 呼ばないで・・ください・・・! 」
紫さんには話せない。
違う。紫さん”だから”話せない。
あたしを妹だと言ってくれた
あの優しい人を突き放したくない。
「 ・・・分かった 」
それでも、彼は電話を切らなかった。
「 お前ふざけんな 」
次に出た彼の言葉は
”怒り”に満ちていた。
「 何が死にそうだよ!!!?
全然元気じゃねーか! 」
・・・・紫さん。
またからかったんだ。
さっき彼が慌ててたのは
こうゆうことか。
「 ったく 」
携帯を閉じて 机の上に置くと
再び あたしの顔の横に腕をついて
ジッと見つめる。
「 お前が、死ぬかもって言ってたから
超急いで戻って来たんだけど。
多分アイツ・・・ 」
言い辛そうに少し顔を歪めて
「 お前が泣いてんの、分かってると思う 」
静かに、耳元で呟いた。
じゃあ、毎回 わざと彼を
焦らせてたの・・・?
────────あたしを、1人にしないために?
「 ・・・・・~~ッッ 」
「 アイツも、俺も・・・
お前のことは他人だと思ってない 」
「 ・・・・・・・うぅッッ 」
「 だから、他人とか簡単に言うなよ?
・・・・・返事は? 」
「 は、い・・ 」
顔を包む大きな手。
頬に感じる温もり。
初めて、心地いいって思えた。
「 ・・・・・あたし、 」
だから、口をついて出た言葉に
自分自身驚いた。
「 母を殺したんです 」
言うつもりじゃなかったことを
すらすらと話してしまう自分。
けど、頬に感じる温もりが優しくて
それが何処か安心できて────・・
「 体が弱かった母は、あたしを産んで
そのまま亡くなったんです。
だから、あたしの誕生日が、命日で 」
相槌をうたないで 彼は
少しだけ頷きながら
静かに聞いてくれた。