────────でも、
「 好きじゃない 」
なんて、真顔で言ってくるから
来た道を戻ろうと体の向きを変えたら
「 好きじゃなくて、愛してんの 」
と、あたしを後ろから抱きしめた。
それから”お前は?”なんて言うから
「 好き 」
・・・少し、泣きそうになってしまう。
彼の愛してるって言葉には力がある。
その声で、その体で、名前を呼んで
あたしに触れて。
「 愛はないの? 」
あたしだけに、溺れてほしい。
「 ・・・どうかなぁ 」
今は言わない。
彼の全てを知らないから
今はまだ、意地を張りたい。
「 ・・・ったく 」
「 龍、もう1回言って? 」
「 ”龍”じゃないだろ? 」
クイッと彼の袖を引っ張ると
彼のムスッとした顔があたしを見て
思わず笑いそうになったけど
「 龍弥、愛してるよ? 」
やっぱり、声になった気持ちは
あたしの意地を軽々と飛び越えて
「 離さないでね? 」
普段、絶対言わないことまで
あたしに言わせてしまう。
「 ・・・・・絶対離さねーよ 」
満足したように微笑んだ彼を見て
”好きだよ”ともう1度、
心の中で呟いた。
「 あたし達、生きてるんだね 」
龍弥に抱きしめられたときに
心臓が脈打つ音が聞こえる。
あたしはそれを聞いて毎回
どこかで安心していた。
「 何だよ?急に 」
大して何があったわけでもないのに
無意識に泣いてしまった。
「 ・・・コレかよ 」
「 コレって何!? 」
「 お前も、生きてるだろ? 」
呆れたようにあたしを見下ろして
小さく溜息を吐いているけど
龍弥もあたしの胸に耳をあてて
”心臓、動いてるな”って
からかうように笑った。
紫さんが最近くれた1冊の本。
何度も何度も同じところで
涙を堪えられなくなる。
「 涙腺、どうなってんだよ・・ 」
龍弥も読んだ本なのに
分かってはくれなかった。
「 赤ちゃん・・・ 」
「 ほしいの? 」
「 いつかは、ほしいな・・ 」
本の中で幸せそうに笑う子ども。
けれど、”現実”はそうではないと
この本が語りかけてくる。
「 うぅ~~・・・ッ! 」
「 泣くなって 」
せっかく赤ちゃんができたのに
産まれてこれなかったり
産まれて名前もつけてもらえたのに
捨てられちゃうなんて・・・
「 ひどいよっ!!! 」
好きな人との間にできた
大切な子どもなのに。
「 麗華・・ 」
涙が伝う頬にキスをして
優しく抱きしめて、額にキス。
「 龍、弥・・ 」
少し体を離すと、
龍弥が”あの顔”をした。
「 あ、待って!お買い物・・・っ 」
パッとドアへ体を向けると
あたしの腰辺りに彼の腕が巻きつく。
「 子ども、作ろうか? 」
妙にご機嫌な声が耳元で
囁く。
「 ちょっと・・! 」
「 子ども、ほしいんだろ? 」
「 そういう・・わけじゃ・・・っ 」
「 俺との子、いらねーの? 」
・・・・ほしい、けど・・
「 見えてる 」
「 何が? 」
「 ”何”がよ! 」
ポケットから透明の
見えちゃいけないものが
見えてる!!!!!!!
「 あ? 」
あたしが彼のポケットを
指差すと、
「 どこみてんだよ・・ 」
と、チャックを上げた。
──────・・・チャックを、上げた。
「 何であいてるの!!!! 」
違うのに!
気付いてなかったのに!!!!
「 え?だってキツくなるだろ? 」
「 知らない! 」
ニヤニヤと笑う彼を見て
”最低”とクッションを投げつけた。
「 ったく、じゃあ何だよ? 」
手探りでポケット辺りを
確認しだす彼の手が
ポケットでピタリと止まる。
「 ・・・・・・コレ? 」
「 ソレ 」
「 ・・・コレか 」
「 ソレだよ 」
お互い黙り込んで、
妙に重たい空気が流れる。