俺は結局,今こうして北海道に来ていた。智浩さんからのさりげなくも強制的な説得のせいもあるが,自分の興味がそそられたからだった。
というのも,智浩さんは旅行のために俺を北海道に誘ったわけではなかったからだ。なんでも,智浩さんの幼なじみである"森慎太郎"さんに会いにいくらしい。森さんと智浩さんは,ほぼ同時期―具体的には小学5年生―から一緒にギターを習い始め,今では森さんもギター講師をしているという。それも,現在俺と智浩さんが働いている音楽教室の,北海道K市の支店で。
そんなわけで年に一度,智浩さんと森さんで,"ギターに対する愛を深めよう会"というのを開くらしい。
若干そのネーミングセンスが疑わしくはあったが,結構な数のギター講師―講師にとどまらず,ギターと関わる人たち―が集まるというから驚きだ。
今回は森さんの地元であるK市が開催地に決まったらしく,智浩さん曰く「勉強になるからお前も来い」ということだった。

再び吹きわたるそよ風に髪をもてあそばれながら,俺はこれからK市で過ごす1週間に想いをはせた。